提案書・営業メールをAIで作る:説得力とトーンを両立する
提案書や営業メールの初稿をAIで作る手順と、説得力を保ちながらテンプレっぽくならないためのトーン調整・事実確認のやり方を解説します。
提案書の白紙のスライドを前に手が止まる、あるいは初稿はできたけれど「なんだかテンプレートっぽい」と感じて書き直す——営業・企画職の日常的な悩みです。AIに「提案書を書いて」と頼めば文章はすぐ出てきますが、そのまま送ると誰にでも当てはまる無難な文章になりがちで、逆に相手に響きません。骨子作りと文章化はAIに任せ、相手固有の情報と最終的な事実確認は人が担う、という分担にすると、初稿の作成時間を大きく減らしながら説得力も保てます。
提案書・営業メールは「相手の課題と自社の強みを箇条書きで渡す→構成案を作らせる→トーンを指定して初稿を書かせる→事実関係を照合する」の順で進めると、テンプレ感を避けつつ作成時間を短縮できます。AIは説得力のある文章を作るのは得意ですが、根拠のない数字や実績を断定的に書いてしまうことがあるため、送信前の事実確認は省略できません。
前提 — 提案書・営業メールでAIに任せてよい範囲
AIに任せてよいのは構成の組み立て、文章のたたき台、トーンの調整といった「型」の部分です。任せてはいけないのは、価格・納期・実績数値・契約条件など、相手にとって意思決定の根拠になる事実です。Anthropicはプロンプトでトーンや文体を指定する方法をドキュメントで公開しており、丁寧さの度合いや文の長さといった要素を明示的に指定するほど出力が安定すると案内しています※1。OpenAIも効果的なプロンプトの書き方についてのガイドで、目的・対象読者・出力形式を具体的に伝えることを推奨しています※2。いずれの機能・推奨事項も更新される可能性があるため、実際の挙動は公式ドキュメントで確認してください。
手順 — 骨子から仕上げまでの5ステップ
①相手の課題と自社の強みを箇条書きで渡す
「〇〇社向けの提案書を書いて」だけでは、AIは業界の一般論で埋め合わせるしかありません。相手が抱えている具体的な課題、これまでのやり取りで出た要望、自社が提供できる強みを箇条書きで先に渡します。ここに時間をかけるほど、後工程の手戻りが減ります。
②構成案を作らせる
以下の情報をもとに、提案書の構成案(見出しレベル)を作ってください。
相手の課題:(箇条書き)
自社の強み:(箇条書き)
提案の目的:初回商談後のフォロー提案
構成は5〜7見出し、各見出しに一言で内容の要約を添えてください。
③トーンを指定して初稿を書かせる
構成案に納得したら、見出しごとに初稿を書かせます。ここでトーンを具体的に指定することが、テンプレ感を避ける最大のポイントです。
上記の構成案の「導入」部分を初稿として書いてください。
トーン:丁寧だが堅すぎない、一文は40字前後を目安に短く。
断定的な実績数値や固有の成果は書かず、
プレースホルダーとして [ ] で示してください。
④説得力のチェックポイントを聞く
初稿ができたら、AI自身に説得力の弱点を指摘させます。「この文章で相手が『自社事に置き換えて考えにくい』と感じる箇所はどこか」と聞くと、抽象的な表現が残っている部分を洗い出せます。
⑤事実関係と数字を照合する
AIが埋めたプレースホルダー、あるいは自信満々に書いた実績や日付は、必ず社内の資料や本人の記憶と突き合わせます。特に「導入実績〇社」「削減率〇%」のような数字は、根拠となる元データを示せない限り送信しないでください。
確認 — 送る前の最終チェック
送信前に、初稿と元の箇条書きメモを並べて、相手固有の情報がどこにどれだけ反映されているか数えてみてください。一般論の割合が高いと感じたら、①のステップに戻り、相手情報をもう少し具体的に渡し直します。
つまずきやすい点 — 説得力とトーンが両立しない場面
AIに何度も書き直させると、文章はなめらかになる一方で、逆にどの会社にも送れそうな無難な表現に収束していく傾向があります。説得力の研究では、相手にとっての具体的な利益・社会的証明・一貫性といった要素が人を動かすとされており、心理学者ロバート・チャルディーニは著書の中で、こうした説得の要素は抽象的な美辞麗句ではなく具体的な事実や事例によって強化されると述べています※3。AIが作る初稿はこの「具体性」を相手固有の情報として持っていないため、人が補わない限り説得力は頭打ちになります。
もっとも、この限界は情報の渡し方でかなり緩和できます。相手の発言や課題の引用をできるだけそのまま渡し、AIには「言い換え・構成・トーン調整」に専念させれば、具体性を保ったまま作成時間は短縮できます。ただし、AIが生成した実績数値や事例をそのまま信じて提案書に載せる運用だけは避けてください。文章生成タスク全般でモデルが事実と異なる内容をもっともらしく書いてしまう現象は研究でも報告されており※4、提案書という対外的な文書では、この誤りが信用問題に直結します。
次の一歩
提案書の骨子作りに慣れたら、同じ手順は社内向けの資料・スライド作成にも応用できます。構成から推敲までの流れは資料・スライドのたたき台をAIで作る記事で扱っています。また、提案後のフォローや問い合わせ対応をAIで効率化する方法はAIでメール・問い合わせ対応を効率化する記事にまとめました。相手が変わっても、骨子はAIに、事実確認は人に、という役割分担は変わりません。
参考文献
- Anthropic. "Give Claude a role with a system prompt." Anthropic Docs, 2026年時点。
- OpenAI. "Prompt engineering best practices." OpenAI Help Center, 2025年時点。
- Cialdini, R. B. "Influence: The Psychology of Persuasion." Harper Business, Revised Edition, 2006.
- Ji, Z., Lee, N., Frieske, R., et al. "Survey of Hallucination in Natural Language Generation." ACM Computing Surveys, Vol. 55, No. 12, 2023.
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